ロートホルンの思い出

  • 2012.07.22 Sunday
  • 07:02
相変わらず4時に起きてますが、一月前の夏至に比べればかなり暗く感じます。夕暮れもどんどん早くなっていくので、夏が過ぎていくのを実感しています。

昨日は北大の学生実習。
ほどほどの暑さで助かりましたが、前から気になっていたエンゲルマントウヒ(Picea engelmannii)の大枝下ろしを、みんなで汗をかきかきがんばりました。この圃場は、1936年(S11)に園芸第2講座ができたときには既にある程度整備されていたといわれ、この木は植えられてから80年くらい経っていることになります。最近流行のプンゲンストウヒによく似ており、こちらの方が少し葉の付き方が細やかですか。

2004年の台風18号被害の後遺症で、すっかり樹形が崩れてしまっていたのですが、あまりにも大変な作業なのでずっと先延ばしにしてました。強風で芯を折られたため、枝先が芯に変化して、ひどい樹形になってしまったのです。今回がんばって、付け根から落とすことができたので、下で被圧されていたランブラーローズの‘ドロシーパーキンス’のアーチ仕立てにも、ようやく陽がよく当たるようになりました。

前
枝下ろし前のエンゲルマントウヒ (北大旧園2圃場で 2012.7.7)

後
かなりミニスカートですが、すっきりした樹形になりました (北大園2圃場で 2012.7.21)

ところで、圃場ではユリの‘ロートホルン’が満開になっていました。この品種はテッポウユリのようなトランペットリリーに、初めて色のついた品種としてデビューした、世界でも画期的な品種だったのです。

ロートホルン
満開の‘ロートホルン’ (北大旧園2圃場で 2012.7.21)

私の恩師である明道先生は、園芸方面ではユリを専門にされていました。戦後復興には、わが国特産のたくさんのユリからすばらしい品種を作成し、海外にどんどん輸出して外貨を稼がなければならないというねらいから、ユリの育種を始めたそうです。
ユリには比較的容易に交雑するグループと、全く受け付けないグループがあり、特にテッポウユリのグループは、ほかの花粉を全く受け付けないという問題がありました。このため、色のついたテッポウユリをいかに作出するのかが、世界の研究者の最も大きなテーマだったのです。
花柱の長いユリでは、花粉管が伸びて胚に到達できないという理由があることを解明し、花柱を切断して胚の近くに授粉することにより、これまで困難であった交雑が、比較的容易にできることを世界に先駆けて発見したのです。

私が農学部に移行したとき、まさにこの『花柱切断授粉法』による新品種育成の真っ最中でした。明道先生の元で、ユリの研究をやっていた大学院の浅野さんが、たくさんの交雑やその後の胚培養を一人でやっていたので、自然に私が手伝うことになりました。
ウイルスを媒介するアブラムシから隔離した、寒冷沙張りの網室の中で、むせかえるようなテッポウユリの香りに包まれて、花柱をカミソリで切断し、様々なユリの花粉をつけていくのです。
ちなみに‘ロートホルン’は、テッポウユリの代表的品種である‘ジョージア’に、スカシユリ系の‘歌声’の花粉を授粉したものです。

昔の圃場
ユリの隔離栽培をやっていた圃場の網室 (1975.8.26)

卒業後数年して浅野さんのところに行ったとき、赤いテッポウユリ型のユリの写真を見せられて、「ようやくこれが品種登録され、世界に出ていくことになったぞっ」と、うれしそうでした。ドイツ語で赤を意味するロートと、筒型の花型から『ロートホルン』にした。ただ、当時は大学で品種登録することはなかったため、M種苗に母球を渡して、そこから世に出ることになると、少し寂しそうな口ぶりだったのです。

その後浅野さんは、ユリとはほとんど関わらなくなり、緑化樹関係の研究をやった後、母校の千葉大学に移られました。そちらでは芝の研究に打ち込み、ちょうど校庭の芝生化のブームの中で、とても忙しい思いをされていましたが、5年前に突然亡くなられてしまったのです。

ちょうどその頃に、圃場整備のボランティアを始めていましたが、ホームセンターで‘ロートホルン’の球根を見つけたので早速植えてみました。この圃場から生まれた品種でしたが、この圃場で咲いたことはなかったのです。

‘ロートホルン’は大変丈夫なユリで、放植してもどんどん増えていくほど病虫害にも強い品種です。今ではたくさんの花を咲かせてくれるようになりましたが、この花を見ると、あのむせかえるような網室の中で、浅野さんと二人で授粉していたことを思い出してしまうのです。

ロートホルン
テッポウユリよりも少し花筒が膨らむ‘ロートホルン’ (北大旧園2圃場で 2012.7.21)
コメント
はぁ〜そうだったのですか…。
また深〜く感じ入るお話をありがとうございます。
  • 今野
  • 2012/08/08 8:50 AM
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